黒の一滴

A GLASS OF WATER

by YUGO Kurubushi 2004
A GLASS OF WATER

 ほら、いいかい。こうやって真水に墨汁を垂らす。するとどうだ、一滴垂らしたところで墨汁は一気に水の中に広まっていく。かき混ぜれば……ほら、あっという間に真っ黒になってしまった。
 君はこの水を飲めるかい?……ほら、やっぱり。君には飲めないと思ったよ。
 たった一滴なんだ。それでも、その水を君は飲めない。君がどこかで感じている嫌悪感だ。すべてが真水でありたいなんて幻想に過ぎないのに、目の前で不純物が混じっていると飲めなくなる。すべての水には何らかの不純物が混じっているのに気づかずに……なんだ。そもそも、純水は人間にとって決して良いものではない。体に不調を起こす。つまり、どこかで不純物が混じっていないといけないんだ。
 だから、何も迷う必要など無いんだ。僕らはこの世界に必要とされている。彼らがいかに嫌悪しようと、僕らの存在を決して無視することはできない。無視しないからこそ、無辜の市民たちが安全に生きることができるんだ。僕らの存在を忘れられないこと、それがすべてなんだよ。
 では、明けない夜と、醒めない夢に、乾杯。
 にこりと笑って。――僕はその水を、ごくりと飲み干した。

『黒の一滴』478文字